突然カラオケへ...そして...
明日は二人にとって特別な日になるだろうから、何しようかな?夕ご飯は何を作ろうかな?などワクワクと案を練っていた新妻の私にとって、「明日、友達とカラオケに行くことになった」の一言はちょっと耳を疑うようなものでした。
理由を聞くと、今は遠方にいる学生時代からの友人が、明日は出張でこちらに帰って来ることになったため、当時仲良くしていた友人達で集まってプチ同窓会を開くことになったのだということでした。その友人は「あいつだけはずっと友達だと思う」とよく名前を聞かされていた、彼の親友でした。
そんな理由を知っても、大事な二人の記念日なのに友達とカラオケなんて...と腹立ちと寂しさの混ざった気持ちは完全には消えませんでしたが、それでも主人の行きたい気持ちはよく理解できました。
「お前も行くか?」と誘われましたが、私にとってはそんなに仲良くもない人たちとカラオケなんて気が進まない、というのが本音でした。それでもせっかくの結婚記念日に夫婦離れ離れで過ごすのはもっと嫌だったので、仕方なくついて行くことにしました。
結婚記念日当日。友達とカラオケを楽しんでいる夫が...
そして結婚記念日当日。予定通り、主人の学生時代の友達数人と共にカラオケボックスに向かいました。
友達数人はもちろん、今日が私達の結婚記念日だなんて気づいていません。それぞれが思い思いの好きな歌を歌って場を盛り上げていました。部外者の私はあまり目立たないようにしようと思いましたが、それでもおつきあい程度に少しだけ女性ボーカルの歌を歌わせてもらいました。
主人もちょっと懐かしいロックをノリノリで歌い、存分に楽しんでいる様子でした。
カラオケボックスの予約終了時間が近づき、そろそろおしまいの雰囲気が漂ってきたころに主人が入力した曲の題名は、私は知らないものでした。
イントロが始まっても、やはり私は聞いたことがありませんでした。ただ今まで主人が歌ってきた激しいテンポのものとは明らかに曲調の違う、穏やかで温かいイントロでした。
そして主人は、今までとは全く違う静かな声で歌い始めました。曲を知らない私は彼の横でモニターに映る歌詞を辿っていましたが、それはずっと一緒にいてくれた彼女に捧げる感謝のラブソングのようでした。
「ありがとう」
「これからもずっと」
「いつまでも二人で」
そんな優しい言葉がちりばめられていました。
「この曲は主人から私へのプレゼントだ」
そう分かった瞬間、私の両目に涙があふれそうになりました。
私にだけ伝わる、夫の気持ち
「初めての結婚記念日という大切な日に、他に予定を入れてしまってごめん。でもこの1年間、ありがとう。いつも感謝している。これからも一緒にいよう。」
主人はそんな言葉を一言も発しませんでしたが、多分主人は今そう思ってこの歌を歌っていると、ほぼ確信を持って分かりました。主人はもともと口下手なタイプなのですが、私はなぜか初めて会った時から彼の気持ちが何となく理解できるのです。よく主人の気持ちを言い当てるので、今でも主人から「なんで俺の気持ちが分かるの?」と不思議がられています。
しかし、ここで泣いては彼の友人達をビックリさせてしまうと思い、何とか涙をこらえました。体の内から溢れるような感情を抑えるのはものすごく大変でしたが、ここでトイレに駆け込んで隠れて泣いたとしても、戻った時の顔でやはりばれてビックリさせてしまうと思い、必死の思いで耐えました。
曲が終わり、主人は隣の私を穏やかな表情で見つめました。私も、少しうるんでしまった目で見つめ返しました。
向かいの席の彼の友人の一人に「あー、俺も早く結婚したいなー。」とつぶやかれてしまいました。
その言葉にちょっと誇らしげな気持ちになったのはここだけの秘密です。
結婚して7年経った今でもあの日のことは忘れません。みなさんも素敵な記念日を過ごしてくださいね。
あとりゆうか
3人の子育て中の主婦です。文章書きとイラスト描き、フィギュアスケート観戦、占い全般が趣味です。 毎日やっている料理や掃除などの家事をもっと簡単に上手にこなせないかといつも情報を探しています。