産後クライシス、産後・子育て中の夫婦円満のコツ

産後クライシス、産後・子育て中の夫婦円満のコツ

産後クライシスは出産後2年ほどの間に幸せだった夫婦を襲う危機的な状態をいい、回避する方法が数多く紹介されています。しかし、最近では産後クライシスを回避せず、大変なことを夫婦で一緒に経験することにも意味があるといった肯定的な意見が聞かれるようになりました。産後クライシスを乗り越え、良好な関係を築くための方法をご紹介します。

どちらが悪い訳でもない!産後クライシスの原因とは?

"出産"という新しい生命の誕生。うれしい出来事のはずなのに、どうして産後クライシスが起こるのでしょうか。

●育児を必死に頑張る妻に対して夫は?

妊娠と出産を経験して親になる女性に比べ、男性の「親としての自覚のなさ」がもめ事のきっかけになることがあります。妻は昼夜を問わず育児に追われる毎日。赤ちゃんが母乳をなかなか飲んでくれない、夜泣きがひどい、おっぱいのトラブルもあるなどさまざまな思いをしながら妻は頑張っています。
しかし、夫はこれまで通りの気ままな生活です。赤ちゃんが泣いたり、おむつの交換が必要になるとお手上げで妻任せといった態度にも多くの妻が不満を口にします。「手伝おうか?」という夫の協力の申し出にさえ、「手伝うって何?自分も親でしょ!」と他人事のような言葉にカチンとくることも多いようです。

●他のイクメン男性と比べて私の夫って!

男性の中にはとてもマメで、育児も家事も器用にこなせる人がいます。そんな父親のことは話題になるので嫌でも耳に入ってくるでしょう。すると、どうしても自分の夫と比較してしまい、がっかりするような、悔しいような気持ちに陥りがちです。
中には、夫が育休をとるというので期待していたら、遊びに出かけてしまい「ひどく落胆した」という女性もいます。"期待感"は現実との開きがあまりに大きい、あるいは何度も裏切られると"絶望"や"諦め"といった感情を起こさせ、人の心を冷ややかにしていきます。

●産後の生理的変化で妻の感情や行動が変わる

出産を機に女性の身体はエストロゲンやプロゲステロンが著しく減少し、代わりに母乳の分泌を促すプロラクチンや子宮を収縮させるオキシトシンなどのホルモンが増えます。急激なホルモンの変化は自律神経のバランスを崩し、情緒不安定になることも少なくありません。また、出産後に分泌されるホルモンの影響で養育行動が増える一方で、涙もろさや敵対的感情が強くなるという指摘もあります。さらに、動物実験のレベルですが、赤ちゃんが乳首に吸いつく刺激が周囲への威嚇など母性攻撃行動を増やすといった報告も出ています。母親のこのような変化は赤ちゃんを守るためなのでしょう。

さらに、女性は身体の変化のほかに生活リズムやライフスタイルも変わり、多くの変化を受け入れざるを得ないことも妻のストレスを強くし、自律神経の乱れにつながります。オムツをうまく替えられない夫に容赦のない言葉が妻から飛んできた場合、どちらが悪いということではなく「産後の生理的変化」の影響があることを知っておくとよいでしょう。

マイナスばかりじゃない?産後クライシスが夫婦にもたらすもの

産後クライシスは離婚に発展しかねない危険なものという意見が多い中で、危機的な状況を乗り越えることに意味があると言われるようになりました。二人で助け合うことなど問題への対処法を学び、その後に遭遇した困難な場面にも動じない強さになるだろうといった産後クライシスに対する肯定的な面が指摘されています。

●新しい生活への適応!うまくいかないのも当たり前

産後は新しい生活への適応の時期です。出産後は「子どものいる家族」として新たな生活がスタートし、親としての役割を学び、経験を積んでいく毎日です。二人目の出産だとしても家族が増えれば生活の仕方も、親の役割や夫婦の関係も変化して、これまでのやり方を変える必要があるでしょう。

●夫婦を成長させる機会と前向きに考えるのも重要

産後クライシスを思春期に起こる反抗期に例える意見もあります。思春期の反抗期はときに家族の崩壊をもたらすほど大きな問題となり、一見、ない方がよいと思われがちです。しかし、思春期は親と自分の考えや価値観などの違いに気づく時期で、子どもは葛藤や不安を経験することで問題の対処の仕方などを学びます。反抗期は子どもが成長し、一人の人間として自立していく過程では必要なものです。

また、ある調査では、結婚して25年以上が経過したご夫婦は何の問題もなかったわけではなく、さまざまな葛藤を経験しながらも希望をもち、楽観主義の傾向があったとしています。産後クライシスは単なる夫婦喧嘩ではなく、離婚などの事態を招く可能性を否定できません。しかし、夫婦の危機的な状況を通して夫婦の関係性を見直し、良好な関係にするための大切な機会と前向きに捉えることも産後クライシスを乗り越える上で大切なことです。

●表面的な解決策ではなく二人で改善策を探る

新たな夫婦の形を作るプロセスではスムーズにいかないこともあり得ると考えて焦らないことが大切です。産後クライシスはこれまでの問題が顕在化し、問題点に気づかせてくれる出来事といった捉え方もできます。

たとえば、どちらか一方がいつも「我慢する」という方法で良好な関係を保っていたなら、これからは二人で別の方法を話し合い、模索することが必要です。そして、孤軍奮闘ではなく、困難な状況を「二人で乗り超えた」という経験は夫婦の絆を深めることが期待できます。今後、困難に遭遇しても二人で考え、助け合えば「何とかなる」という対処の可能性を感じられることは心の安定感に極めて重要です。

夫も妻も頑張っている!お互いのねぎらいと協力で良好な関係を

妻の夫に対する愛情の変化に関する調査によると、夫への愛情は出産直後に著しく低下しますが、すべての人が低下したままではありません。その後、結婚直後のレベルに回復する人もいて、そのように回復できる人を詳しく調べると「夫の育児参加」が鍵となっていました。

●夫も我慢している?男女差を理解することも重要

意外ですが、妊娠期から出産後2年にかけて調査した研究によると、出産前も出産後も妻より夫の方が我慢している割合が多かったといいます。また、夫の妻に対する気持ちが冷める理由として考えられるのは妻の強いイライラや労働時間が長いことでした。

また、夫の育児参加が少ない理由を考えるときに参考にしたいのは、仕事のストレスと育児行動の男女差です。仕事のストレスが大きいときに、女性は育児にむしろ積極的になるのに対し、男性は育児から離れようする傾向があるといわれています。同じような状況になっても、現れる行動は正反対です。そのため、「仕事で疲れてるんだ」という夫の言葉は妻には理解しにくく、「私だって疲れてるのに!」ともめ事の原因になります。ストレスの現れ方が違う、男女差があるという点を知っておくと受け止め方に変化ができてきますよ。

●夫が育児参加しやすい環境をつくる

「見てられない!もういい!」と夫の育児をシャットアウトしてした経験はありませんか。器用に育児ができる男性もいれば、難しい人もいます。つい「教えるなんて面倒!」思ってしまう人もいるかもしれませんが、新しい生活の中でよりよい関係を築くには相手が受け入れやすい状況をつくることも必要です。

「夫の不器用さは私の想像を超えていた」とため息をつく女性もいます。しかし、不器用ながらもやろうとする夫に少し寄り添う気持ち、「育児参加」の基準をあまり厳しくせず、ちょっとでもできたところを認めることが必要です。続けて欲しいと思う行動には、具体的に「褒める」、「感謝」などの肯定的なフィードバックを忘れずにしてください。

●夫に苛立つ!一方で後悔するなら素直になりましょう

夫婦で顔を合わすたびに言い合いになる、言い合いはしなくてもピ―ンと張り詰めた雰囲気が続くのはお互いに辛いものです。ある女性は、夫の顔を見るとつい文句をいってしまい、イライラをぶつけてしまうという罪悪感に苦しんでいました。「夫が仕事に行った後、『なぜ、やさしく送り出せないの?』と夫に申し訳ない気持ちでいっぱいになる。でも、夫の顔を見ると同じことを繰り返してしまう。」といいます。「ごめん」と謝ることや「行ってらっしゃい」をいうのが難しいこともありますね。

素直になるには、自分の中にある葛藤やさまざまな思いを誰かに話して一度、受け止めてもらうとよいでしょう。心の中でつぶやくのではなく、言葉を具体的に口にすると夫に直接、伝えることに一歩、近づくことができますよ。また、男性の方も妻への感謝の気持ちがありながら、言葉にできないという人も少なくありません。すぐにいえなくても、ご夫婦がともに「素直に伝えよう」という意識を忘れないこと、二人の関係をよくしたい、できるようになろうと意志を明確に持ち続けることが大切です。努力を続け、今の状況を夫婦の成長の機会へと変えていきましょう。

産後クライシスは深刻な危機的状況をもたらすこともありますが、新しい環境への適応による痛みであり、ご夫婦の関係性を見直す機会ともなります。産後クライシスを乗り越えるには二人の関係性をしっかり見直し、改善を図りたいという意志を明確にもてるかも重要です。二人でよく話し合い、ご夫婦に訪れた危機を二人で乗り越えてください。

普段の仕事は心理士として、助産師として女性のこころとからだの健康を支援しています。ライターとしては個人的な経験も含めて、日常生活のちょっとした疑問やふと気になる心配事の解消に役立ちたいと思っています。

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